牛歩の猫の研究室

牛歩猫による歴史研究の成果を発表しています。ご指摘やご質問、ご感想等ありましたらお気軽にどうぞ。

石原莞爾と支那事変

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 はじめに

 一九三七年七月七日に盧溝橋事件が発生した後、陸軍参謀本部作戦部長という要職にあった石原莞爾(いしわらかんじ。“いしはら”は誤り)が、いわゆる不拡大方針を主張したことや、事変の泥沼化を警告したことはよく知られている。これは石原を主題にした書物以外でも、支那事変を扱った書物であれば必ずといってよいほど言及されるが、管見によれば石原がそうした主張をすることとなった根拠については意外にも十分な分析がされてこなかったようである。したがって参謀本部時代(一九三五年八月~一九三七年九月)前後に時期を限っても、彼が心の内を披瀝したと信じられる重要な発言が、それを直接聞いた人物により相当数記録、公刊されているにもかかわらず、ほとんど活用されていない。また、インターネット上の議論は言うに及ばず、プロの論考であっても明らかに誤った石原論が横行しているのが現状である。一方で的を射た論説も少なからず存在するが、ほとんどの場合深入りはしないのであり、物足りなさを禁じ得ない。

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トラウトマン工作における新和平条件の決定について(高田万亀子『静かなる楯 米内光政』批判)

 石射猪太郎と風見章回想の食い違い

 トラウトマン工作における日本側の新和平条件案が決定した一九三七年一二月一四日連絡会議(最終決定は二一日閣議)の様子は、石射猪太郎外務省東亜局長が『外交官の一生』、風見章内閣書記官長が『近衛内閣』でそれぞれ伝えている。しかし両者は同じ会議に出たはずであるのに、その内容には多くの相違点が発見できる。主なものを摘記しておけば、

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不戦条約は「侵略(aggression)」を定義したか

 侵略戦争を禁止したとされる不戦条約(一九二八年八月締結、ケロッグ─ブリアン条約とも)の解釈については、雑誌『正論』(産経新聞社、二〇一五年一二月号~二〇一六年五月号)に六回にわたって連載された福井義高「不戦条約と満州事変の考察」という論考に大いに啓蒙されるところがあったので、以下にその要点を書き出し、若干の付記を加えておく。

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別宮暖朗「石原莞爾批判」批判

 別宮暖朗という歴史評論家を名乗る人物が、インターネット上や著書で石原批判を展開しているのだが、その内容はといえばあまりに根本的な間違いが多く、嘘も含まれている。しかし妙に影響力があるらしく、別宮氏の文章が出所と思われる情報が伝播してしまっているのを見かける。そこで、誤った情報を信じる人がこれ以上増えないよう筆をとった次第であるが、筆者の言いたいことは他の記事に書いているので、基本的に本稿はよっぽど興味のある人か、よっぽどの暇人でない限り読む必要はない。

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